とある日、私は朝いつものように新聞を開いた。そこに小さな文字で「A氏、○○市長選挙に出馬表明。」と書かれていた。私は仰天した。A氏はそういうものに出そうにない人だと思っていたからだ。テレビでも軽くそのことに触れていた。その時、私はこれは面白そうだ、と考えた。政治の世界に少し興味(議員になりたいとかではない)があった自分はしばらくしてその人に会い手伝いをしたいと申し出た。そういうひょんなことで私は選挙手伝いをすることとなった。
 最初、A氏に案内されていった所はある議員の事務所だった。その議員はその時点で唯一A氏の支援を申し出ていた人だった。そこの議員の事務所に行って愕然とした。本当に間借りもいいところで机は一つしかなく、丁度A氏に秘書がついたばかりで、まったく選挙という感じではなかったのだ。しかも今のところ人員はその秘書と自分だけというではないか。私は思った。「こりゃやばいな」と。その感覚は後で後述するがある意味当たっていたのである。
 そしてその日以来数ヶ月私はその事務所にいかず、A氏と連絡もとらなかった。さすがに手伝うからには勝つ見込みがあるちゃんとした所でやりたかったからだ。そして夏になり選挙も近づいてきた。さすがに申し訳ないような気持ちになり、再びA氏に会い事務所に行った。そこには数人の学生がおり、なにやらせっせと印刷をしている。「いい所にきたねえ。手伝ってよ」と言われ自己紹介する暇もなく手伝わされた。聞けば学生の代表格はB君らしい。その他の数人の学生はB君に連れられて来たらしい。B君自身はA氏の元教え子だったわけだが、A氏から直接電話でオファーがあって私が逃げた直後からやっているらしい。なにか申し訳ないような気持ちで一杯になる。この日はそれほど遅くなることもなく活動は終わったのだが、この後から私は地獄をみることとなった。