映画評(ネタバレ有り)

「VITAL」 塚本晋也監督


塚本監督にしてはわかりやすいストレートな恋愛映画な内容だったと思います。
もちろん、設定や演出は変わっていますが。
エンディングを歌っているcoccoの「blue bird」はCD化されないとか。


そんなことは置いておいて内容について。
博史(浅野忠信)は今後、どのような人生を歩んでいくのだろうか。
映画の最後において、博史は郁美(KIKI)と以下のような会話をしている。
博史「ごめん」郁美「ありがとう」
これは、別に郁美と博史が結ばれたことを示しているわけではないだろう。
つまり、単純に現実世界に嫌がおうにも戻ってしまった博史が、
いままでの自分の行為について、郁美に謝っただけであろう。
涼子(柄本奈美)が荼毘に付されるシーンで、博史が泣き崩れるシーンでそれがわかる。
そう考えると、救いがない映画だなとも思える。
涼子に囚われたまま、人生を生きていくとも考えられるからだ。


しかし、これは博史が乗り越えなければいけないイニシエーションだったのだ。
医学生としてだけではなく、記憶を失い現実感を喪失していた博史にとって、
過去、愛していた人と肉体を通して触れ合い、仮想世界において現実感を取り戻し、
その現実感を現実世界に持ってくることが出来たのだ。


今後、博史はもしかしたら郁美と付き合うかもしれないし、別の女とも付き合うかもしれない。
現実感を取り戻した博史には、未来が待っていると思う。
まあ、これは自分の解釈であって、見ようによっては逆にも取れる場面はあるが。


解剖実習という設定について。
カエルの解剖実習さえマトモにやったことのない(やったかもしれないが記憶になし)
自分にとって、興味深く見させてもらった。
最初はおそるおそる扱っていた学生が、どんどん好奇心(いい意味で)を持ち、
人体と接していく様子が、よくわかる流れだった。
ある意味、モノとしてみてるのかなとも感じたが、
実習終了の際に、実習生が柩に衣装や花束を入れて儀式を取り組んでいくことによって、
再び実習生が死というものについて、考えるのだなと知ることが出来た。


女優の柄本奈美さんの演技というか、ダンスの美しさには流石だなと思った。


塚本監督は、いろんな所で言われているが、今まで「都市と人間」をテーマに
時に暴力的に描いてきた。
この映画の中では、暴力性はほとんど感じなかった。
むしろ、「生」「命」をひたすらに描いていた。
次の作品ではどのような映画を作るのだろうか。